日比NGOネットワーク(JPN)2023年度第2回学習会の報告です。
「私がゴミを拾う理由―フィリピンと日本、ゴミを取り巻く環境の違い―」を2024年2月14日(水)にオンラインで開催しました。日本からのゲストは、おっちーさん(日本一周中の沖縄の大学生 ※2024年2月当時)、れおくん(ゴミ拾いや社会活動に取り組む小学6年生 ※2024年2月当時)。フィリピンからのゲストは、ドナメイさん(幼いころからゴミを拾って家族を助けている2児の母。25歳)。司会はJPN運営委員の内山順子氏(NPO法人DAREDEMO HERO理事長)です。
小学生、中学生、大学生、団体職員、大学教員、会社員など、25名が参加。「なぜ私たちはゴミを拾うのか」というテーマでトークセッションを行いました。
ゲストの自己紹介
●おっちーさん
沖縄国際大学4年生。休学して日本一周中で、今はヒッチハイクして山口県下関市にいます(2024年2月現在)。大学入学と同時にコロナウィルスが広がり、授業はオンライン授業で、家にいるかバイトを繰り返しました。沖縄の海は綺麗と言われているけれど、実際にゴミ拾いをしていたら綺麗じゃないと思い、自分の手でゴミ拾いをしようと友達と団体を作りました。音楽イベント、講演会などを行っています。
●れおくん
綺麗な海を守りたいと、活動している小学校6年生です。ゴミ拾いを始めたきっかけは、自由研究でデータを取る為に、週に一回のゴミ拾いをしたこと。ゴミ拾いの他に、講演活動、マイクロプラスチック回収ロボットの制作などを行なっています。この活動を通して重視しているのが、平和と世界の子どものこと。以前もJPN主催の勉強会に何度か参加しました。レポートも出ているので是非見てほしいです。
れおくんのレポート:「光が見える未来へその先に繋がる世界の財産」
フィリピンについて:内山さんのお話(NPO法人DAREDEMO HERO理事長)
●フィリピンのイメージとは?
セブ島と言えば、観光のイメージで、素敵な綺麗な海があり、マンゴーが美味しいというイメージ。一方で、貧困の現状が存在。
一般的にフィリピンと聞いて思い浮かべるイメージ
内山さん撮影の写真。日常。「先ほどまでゴミ山にいた」
●なぜフィリピンにゴミ山があって、ゴミを拾って生活しているのか?
それは
- ダイオキシンが出るような焼却の仕方は法律で禁じられている
- 焼却場を作る予算が確保できないためにフィリピンには焼却施設がなく、それでゴミが積み上げられている
- ゴミは私たちには単なるゴミであっても、利権を得ている人がいる
このような状況が重なり、フィリピンにはゴミ山が存在し、貧困にある人がゴミを拾って生活しています。
ゴミの分別は少しされているものの、燃える・燃えないゴミが混ざっています。その中で、主にペットボトルや段ボールが拾われています。トラックでゴミが運ばれてきたら、より良い物を得ようと人が集まります。1日ゴミを拾っても300~400円ぐらいの収入。食べ物が買えないため、レストランから捨てられるゴミでまだ食べられるものを拾って洗って、それを再調理して食べている人もいます。
ドナメイさんの紹介
ドナメイさん:25歳。子ども2人と夫(無職)と4人暮らし。月の収入は日本円で約2,000円。小学校は卒業していないため、小学校卒業程度の学力。7歳から家族のためにゴミ拾いを始め、11歳からはゴミ拾いを専門としています。副業でお土産のキーホルダーを作っています。夢は子どもたち2人が大学に行くこと。
ゲストの皆さんに質問
●なぜゴミを拾っているの?
おっちーさん:部活動のゴミ拾いがきっかけ。沖縄の海は観光地で綺麗と思われています。高校の隣は海で、ビーチクリーンをしていたらゴミがたくさんあり、沖縄の海は綺麗と言えないのではないかと思い、自分で拾おうと思いました。
れおくん:理由は、おっちーさんと同じように沖縄の海が実は意外と汚いと思ったことです。2050年までに魚よりもゴミの量が増えてしまうという話を聞いたことがあります。小さな子どもが絵を描く時に、魚ではなく、ゴミの絵を描いたら嫌だなと思いました。
<現地の言語であるビサヤ語➡英語➡日本語という段階を踏んで通訳>
ドナメイさん:ごみを拾うのは収入を得るためや、生きるため。食べ物を見つけるためにゴミを拾っています。
●皆さんにとってゴミとはどんな存在?
➡参加者の回答
- 臭い
- 汚い物
- 人間のエゴ
- 地球を汚すもの
- 必要でなくなったもの
- 無くさないといけないもの
➡ドナメイさんの回答:ゴミは自分を助けてくれるもの
内山さん:同じゴミと言っても存在の価値が違います。確かになくなった方がいい、いらないものとは思います。ドナメイさんにとっては、ゴミがなくなったら生きていけないですが、それはフィリピンの彼女だけに限らないですね。
他にゴミ拾いをしたことがある人?
参加者:親子でゴミ拾いをしています。ゴミ拾いをするのは自分の家にゴミが落ちていたら拾う、そんな感覚に近いです。夏休みは地域の子どもたちに声をかけて公園のゴミ拾いをしています。
内山さん:フィリピンで海を守るためにゴミ拾いをしている方はどうですか?
参加者:セブ島で海に潜っています。海の中のゴミは、山で捨てたゴミが海まで流れてきます。隣のネグロス島でのビーチでゴミ拾いをしている子どもたちがいて、そこに参加したことがあります。底辺の嫌な仕事ではなく、笑顔で歓迎してくれて、嬉しそうな顔をして拾っていたのが印象的でした。
内山さん:日本でゴミ拾いをしているのはどうですか。
楽しい、それとも嫌々?仕事としてやっているのは恥ずかしいという風潮がありますか?
おっちーさん:僕はそうは感じませんでした。沖縄だけでも40近くの団体があって、嫌々やっている印象はないです。
れおくん:意外とごみ拾いに抵抗がない人が多い。さすがに素手では拾わない人が多いですが。日本ではそこまで抵抗がないと思います。
内山さん:日本ではスポーツゴミ拾いとかイベント的に楽しくしている感じがありますね。フィリピンの人が笑顔で拾っているのが印象的だったという話がありましたが、ドナメイさんにも聞いてみましょう。
ドナメイさん:ゴミを拾うことを誇りに思っています。収入を得る仕事だからプライドを持って行っています。
内山さん:ゲストの皆さんのそれぞれ目的も、ゴミを拾っているときの感情、それぞれの想いが違うと思いました。ゴミに限らず、色々なものが国や場所、年齢によって捉え方が違います。日本の当り前が世界の当り前と感じてしまう。それを人に押し付けてしまうことがある。それをしても解決したいことを解決できないのではないかと思い、ゴミというトピックで、ひとつのゴミでも全然違うということを皆さんに知ってもらって、自分の認識や常識を疑ってほしいと思いました。
●ゴミ拾いを通してどういう社会や世界を目指しているか?
れおくん:実現するかわからない話だけど、世界平和と世界中の人間が住みやすい環境につながったらいいなという想い。
おっち―さん:環境を良くしたいという目線ではなく、ゴミ拾いという居場所から新しい気づきや自分のアクションにつなげていくのが大事なことかと思います。
ドナメイさん:ゴミがあろうがなかろうがそれはどうでもいい。家族、特に子どもたちと幸せに暮らすことが理想の世界。
●フィリピンでゴミを拾って生活している人がいることと、自分のゴミ拾いをしている環境をあらためて整理して感じたことは?
おっち―さん:一番感じたことは、この現状、日本とフィリピンのゴミ拾いの違いをもっと多くの人にどう伝えていけばいいか。日本一周を通して、沖縄に帰ってからも考えていきたいと思います。フィリピンに行ったことがないので、フィリピンに足を運びたいというきっかけになりました。
れおくん:商売のためにやむを得ずやっているのではなく、「プライドを持ってやっている」という話に驚きました。いつかフィリピンに行って、綺麗な部分だけではない観光をしてみたいです。
参加者からの質問
参加者:ゴミ山に捨てる状況の前段階として例えばリサイクル、リユースという概念はあるのか。ゴミでこれから使えるものとそうではないものと分別するようなビジネスはあるのか?
➡内山さん:ゴミを拾って生きている人たちにとっては、アルミや食べ物が取られてしまうから、そのまま捨ててもらう方がいい。
れおくん:(ドナメイさんの)趣味について知りたい。先ほどキーホルダーの写真(※ドナメイさんが副業で作っているキーホルダー)を見せてくれたが、後ろにスーパーマリオのポスターがあった。共通点があるかもしれないし、子どもが2人いると言っていたので、その2人のことを聞けたらいいなと思った。
➡内山さん:「時間がある時は何しているのか」聞いたら、「時間はない」。普段はゴミを拾いに行っている、拾いに行っていない時はキーチェーンを作っていて、子どもたちはキーチェーンを作るのを手伝ってくれている。趣味という言葉を理解できていなかった。
その後は3つに分かれてグループトークを行いました。
各グループからの発表
- (ドナメイさん/内山さん)
リユース、リサイクル施設を作るだけではなく、そこに根本的に利権がからんでいるそういう点に目を向けていかなければ、解決に届かないことを学んだ。 - (おっちーさん/小池さん)
日本の人の一般論や常識として、ゴミは汚いもの、いらないものという価値観としてある。フィリピンでゴミを拾って生活している人はゴミ拾いに対して誇りを持っている。「ゴミ拾いがコミュニティであり、自分の人生を豊かにする」というおっちーさんの話が新鮮だった。 - (れおくん/シャープ)
マングローブを植えることでより豊かな生態系が生まれて、魚が増えて地元の漁師が豊かになるという良い循環が生まれるという話をした。
この学習会を通じて、やりたいと思ったこと
- マングローブを100本植える。
- 海のごみを無くそうと拾っても山から出ていることもある。具体的にどういうところに行くのかを調べたい。
- ゴミが落ちていたら積極的に拾う。缶はリサイクルできるから持っていこうと思う。
- 自分たちの意識を変えれば、ゴミは少し減らしていける。
内山さん:ドナメイさんに、今まで自分が感じているゴミとは違うゴミ拾いをしている人たちがいることについての感想を聞いています。
ドナメイさん:私は生きるため、日々の食事を得るためにゴミを拾っています。世の中にはそうではなく、楽しくゴミ拾いをして、地球を綺麗にしたいという別な目的で拾っている人がいるという現実を知って、自分の置かれている状況をあらためて考えて悲しくなりました。
内山さん:これを聞いてそれに対して悪いと思わず、その気持ちを受け止めて、自分が何かをするきっかけをもらったと考えてほしい。
行動へ移すステップとは、まずは興味を持つこと。行動に移した時に感じることや失敗することがあると思うけれど、そういう時に学んだことを広めていくことが大事。自分の世界を狭めないで、自分の家族や地域、国と、広げていくことで地球は綺麗になり、住みやすく、平和で幸せな空間になっていくと思います。
クロージング:小池絢子氏(認定NPO法人WE21ジャパン 事務局長代行・民際協力室)
今日のテーマは、「なぜゴミを拾うのか」。ゲストの皆さんそれぞれがゴミを拾う理由がある。動機が違っても、自分が何かをしたいということ、行動に移したということがとても大事なところだと思います。
ゴミを出す前に、ゴミを捨てないことや、「これは必要かな?」と思う、という話も出ていました。私が働く団体、WE21ジャパンでは、ゴミを出す前に、着なくなった服を「チャリティショップ」というお店で販売しています。お店で買い物をすることで参加でき、楽しみながらできる活動もあります。
ゴミの問題、環境の問題、フィリピンの抱えている課題で、できるアプローチは色々あります。何ができるかを考えて、考えたことを、一番はじめのワンステップでもいいので、実現していただきたいです。
小池氏のクロージングにより、第3回学習会を終了しました。ご参加いただきありがとうございました。
参加者の皆さんと
報告:シャープ茜
【協力団体】※JPN正会員団体・運営委員より
司会&ファシリテーター:内山順子氏(NPO法人DAREDEMO HERO 理事長)
クロージング挨拶:小池絢子氏(認定NPO法人WE21ジャパン 事務局長代行・民際協力室)