日比NGOネットワーク(JPN)2023年度第3回学習会の報告です。
「国際協力の新しいカタチ―ビジネスパーソンが推進するフィリピンの子どもたちへの教育支援―」を2024年3月16日(土)にオンラインで開催しました。講師は、外舘孝則(とだてたかのり)氏((特活)エンチャイルド 理事長)。伊藤道雄氏((特活)アジア・コミュニティ・センター21 代表理事)が開会と閉会の挨拶を行い、司会はJPN事務局のシャープが担当しました。
大学生、団体職員、会社員など、12名が参加。NPO法人エンチャイルドはフィリピンの子どもたちに教育支援を行っている団体で、外舘氏がビジネスパーソンとして歩みながら、フィリピンの子どもたちへの支援を20年間も続けられているその思いと事業・組織運営の実際と課題についてお話をお聞きしました。
「仕事や子育てもしていて、国際協力に関わりたいけれどどうしたらいいか?」という参加者(赤塚智美さん:意見交換ではともみさんと紹介)の質問から、話が展開し、本学習会に参加した方が実際に行動に移すという成果も、学習会後に見られました。その内容も踏まえてご紹介いたします。
講師のお話
●エンチャイルドについて
2011年に設立したエンチャイルドは、「教育支援」、「社会教育」、「国際交流」を行う国際協力団体です。「子どもたちが夢と志を持って生きられる社会」をビジョンに、ピース・アドボケイト(平和の擁護者/社会課題の解決者)となり、社会課題の解決者を育成しています。フィリピンの人々が行動を起こすことでフィリピンの地域社会が変わっていくと思うため、自分たちの活動がきっかけになればよいと考えています。
エンチャイルドのミッション
「子どもたちが可哀そうだから支援するのではなく、お金があるから支援をするというわけでもない。家族愛を持って支援するとどういう支援になるのか、それを20年近く続けて挑戦している」と外舘氏は話しました。2000年、MDGs(※)の時代に「プチ社会貢献」をしようと、中国の・内陸部の山間部に住む子どもたちの支援を約10年続けました。友人の家族がフィリピンの出身なのですが、日本の水が合わずに体調を崩し、家族でフィリピンに帰らざるを得なくなりました。その友人を通じた現地との縁がきっかけでフィリピンの子どもたち20~30人の支援をしていたそうです。
2011年にNPO法人を設立し、その後は奨学生の募集から学校との連携をするようになりました。奨学金支援を通じた教育支援を続ける中、課題も見えてきました。貧困の連鎖を断ち切ることや、社会のリーダーとなる子どもたちを育成するために、志のある奨学生たちには、大学卒業までを支援をするようになりました。奨学生の延べ人数は357人、2023年度は123人だそうです。
フィリピンとの縁やエンチャイルド設立に至った経緯を話される外舘氏
●運営について:「運営仲間は登山仲間!」
・財務規模:年平均500~550万円
・収入は、助成金には頼らず、会費、寄付、クラウドファンディング
・サポーター基盤:約200人
・スタッフは登山仲間。「山歩きクラブ」では登山を約130回実施
「私が個人事業主であるスタッフに仕事を提供しています。私からの仕事が多ければ私とも仲良くなり、エンチャイルドがうまくいきます。お互いが自立できる関係を持つことや、家族に負担がないように続けています」
フィリピン側のスタッフはボランティアスタッフとしての体制で、活動には十分な人が動いているそうです。
現在は、円安が最大の課題。団体との連携、高齢化する事務局の世代交代など。
●「GIVE & TAKEからGIVE & GIVEへ」
「自分がやることで社会がよくなるならやっていきたい」、「GIVE & TAKEからGIVE & GIVEへ」という想い、子どもたちの成長する現場に触れ、家族愛を持つことがエンチャイルドの原動力です。
「受益者から支援者になっていくためには、自分を超えたもの、社会のために生きようという気持ちを刺激しながら育っていかなければいけない」
エンチャイルドの奨学生が企画や実践をする、「サンタになろう!プロジェクト」。誰でもできる国際協力をサポートする「マイプロジェクト」を推進しています。マイプロジェクトでは、コロナ禍の際に、約300世帯にお米を配った「OKOME-Project」、大量に余っていた手ぬぐいをマスクにした「てぬぐいマスク・プロジェクト」。その他、リサイクルの靴や衣類を子どもたちに寄贈する「Hand in Hand Project」、社員研修・英語交流事業、ダンス交流など、国際協力や国際交流をプロデュースしてきました。
「日本から勝手にフィリピンに行って行うのではなく。本当に問題解決できるような構想。これが次のチャレンジ」だと外舘氏は語り、お話を締めくくりました。
意見交換
「家族愛」を基本理念に置かれていますが、家族愛を日本にどのように伝えますか?
外舘氏:ツアーに参加したことで、フィリピン人のホスピタリティや、日本人が失いかけているものを知ることができ、国境の向こうで初めて会った子たちと近い情で交流できるのはインパクトがあります。一つの事例として、結婚に希望は持っていなかったし、子どもも可愛いと思っていなかった方が、ツアーに参加して、家族愛が刺激されて、「子どもが可愛くなった」と言ったこともあり、その後、その方は結婚をしました。
会社経営をしていて会社の方で支援しました。フィリピンにも行き、貧困層の人が住んでいる地域を歩いたこともあります。外舘氏は内に秘めたる情熱を持っていますね。ビジネスパーソンで完全ボランティアとして続けることは難しいだろうと思うので、企業を巻き込んだ活動ができないかと考えています。
小さい時から国際協力に関心がありました。貧困層の子どもたちのために何ができるかと考えて英語を勉強しました。結婚して子育てしているため、国際協力・交流から離れて何年かが経っています。オンライン英会話を再開し、先生はフィリピンのセブ島出身です。学生時代から国際協力に関心があり貧困層の子どもたちに何が出来るかと考えながらまずは英語を勉強していましたが、結婚~子育て中心の生活で気持ちが離れてしまっていたのですが、もう一度やり直そうと昨年からセブ島のオンライン英会話をはじめたことをきっかけにフィリピンに興味を持ちました。
今日のセミナーは関心のあるフィリピンと国際協力のキーワードにピンと来たので参加しました。
外舘さんのお話を聞いて、私が目指したい国際協力のカタチはこれだ!と思いました。こんな私でもできることはあるのでしょうか?
外舘氏:エンチャイルドはあなたのような人を必要としています。
人の役に立つということであれば、エンチャイルドのマイプロジェクトや活動に触れて、関わっていただけたら嬉しいです
国際協力に携わりたいという想いがありますが、
正直なところ、仕事と子育てで時間がありません。それでもやっぱりフィリピンや何かしたいという強い気持ちで今年からビサヤ語の勉強も始めました。家庭があるのでマンスリーサポーター等大きな額の寄付は難しく、限られたことが多いのですが、実際にできることはあるのでしょうか?
外舘氏:あります!受益者が手紙やコラム、エッセイを書いてくれていて、翻訳は事務局長が行っています。色々な業務を担当しているので追いつかない。学習や復習を兼ねて、翻訳のお手伝いをしていただくという関わり方もあります。
今の自分にできることとして、フェアトレードはお互いがwin-winになるものだと思い、できる範囲内でその商品を購入しています。最終的なゴールは、ビジネスを通して貧困や途上国の子どもたちを支援できる人になりたいです。ビジネスのカタチでなら継続的な支援ができると思います。これからもオンライン英会話等で接するフィリピンの先生たちから英語だけでなくフィリピン文化やビサヤ語を学んで、大好きなフィリピンともっと繋がっていきたいと思います。
テーマに沿う内容であり、家族愛がテーマとしてあったことにあらためて気づきました。共に山に登り、山頂でコーヒーを沸かしながらエンチャイルドをどうしていこうか語ったこともあります。外舘さんとはお兄さんと弟のような家族を意識してやっています。アメリカで学んだ英語を使う機会がなかったけれどオンラインやツアーで生かすことができ、エンチャイルドは自分にとって社会貢献の場だと思っています。
自分自身にも整理されたお話でした。趣味と道楽で始めたことを、何か生かしていけるということが嬉しい。フィリピンに行って、元気を与えようと思ったのに元気と勇気をもらって帰ってきました。外舘理事長はしっかりした哲学があるので安心して喜んで一緒に活動できています。山も一緒に上りましょう!
外舘氏:先ほどビジネスの話が出ましたが、私はビジネスに関心を持っています。フィリピンで立ち上げた時の代表者と事務局長はコーヒー会社を経営しています。彼ら自身が生計を立てるためと支援している子どもたちの就職先のひとつとでもあります。「グローバルユースモデル」というように、国際社会で生きていくようなリーダーに育てていきたいという志もありますが、ビジネスにつないでいくことにも関心を持ってやっているので今後そういう話もできると良いと思いました。
クロージング:伊藤道雄氏(認定NPO法人アジア・コミュニティ・センター21 代表理事)
フィリピンよりも日本の方が経済的に恵まれていると言われていますが、フィリピンの人から学ぶことが多いです。そのひとつが家族愛。「フィリピンの子どもたちとの交流は日本を救う」というキャッチフレーズにしてもいいのではないでしょうか。
そして、「楽しみながら」行っているとエンチャイルドに関わる方からご発言がありました。新しいカタチの国際協力のキーワードは、「楽しむ」、ですね。他のNGO関係者の人たちにも、「楽しみながら国際協力をする」という考えが広がればいいですね。
●本学習会開催後、実際に行動に移したともみさん
外舘氏から「エンチャイルドはあなたのような人を必要としています」と聞いたともみさんは、その後エンチャイルドのサポーターになり、7月からボランティアスタッフとして関わっているそうです。本学習会が「運命の出会い」であったことがエンチャイルドのブログでも紹介されています。JPNの会員にもなっていただきました。ともみさん、ありがとうございます。
👇ともみさんが書いたブログも是非ご覧ください!
★3分で読める社会貢献★エンチャイルドblog
【1647】「エンチャイルドは、あなたのような人を必要としています」
(参加者の皆さんと)
報告:シャープ茜
【協力団体】
講師:外舘孝則氏((特活)エンチャイルド 理事長)
クロージング挨拶:伊藤道雄氏((特活)アジア・コミュニティ・センター21 代表理事)※JPN正会員団体・運営委員
司会&ファシリテーター:シャープ茜(JPN事務局)