活動報告:学習会第4回「ストリートチルドレンのリアルを知る 」を開催しました 2023.1.11

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全5回の学習会シリーズ「現場から学ぶ国際協力~はじめの一歩から行動に移すまで~」の第4回の報告です。

第4回の学習会「ストリートチルドレンのリアルを知る」を2023年1月11日(水)に開催しました。小学生、高校生、大学生、団体職員、社会人の25名が参加。講師は、辻本紀子氏(認定NPO法人アジア・コミュニティ・センター21(ACC21)広報/事業担当)、清水匡氏(認定NPO法人国境なき子どもたち 理事・広報/人道写真家)の2名です。司会は、前回第3回の学習会の講師、小池絢子氏(認定NPO法人WE21ジャパン 民際協力室/事務局次長)が務めました。

講師のお話1:辻本氏

高校時代に国際協力に関心を持ち、大学では社会学部に進学。開発社会学や地域研究を学び、卒論の調査でカンボジアに行き、日本で何ができるか?と考え、NGO団体での就職を希望したそうです。

現在はACC21でフィリピン事業を担当している辻本氏より、フィリピンのマニラ首都圏の発展している様子と、スラム地域や農村部の写真が紹介されました。今回の学習会のテーマでもある「ストリートチルドレン」とは、全ての子どもが路上で暮らしているわけではなく、日中は路上で過ごし、夜は家に帰る(70%)、路上で寝泊まりする(25%)、家族との関係が断たれた子どもたち(5%)の3つに分かれ、少数ではありながらもリスクが高いのは、家族との関係が断たれた子どもだけで過ごしている子どもたちであると説明しました。「ストリートチルドレン」は差別や偏見を招く言葉でもあることから、2017年の国連・子どもの権利委員会の「一般的意見21」では「Children in Street Situations(CISS)/路上の状況にある子ども」(平野裕二氏による日本語訳、日本弁護士連合会ウェブサイトに掲載の資料を参照)という用語を用いることが提案されました。なお、辻本氏はフィリピンの団体と話をする際には「CISS」を用いるが増えているものの、日本では十分に浸透していないため、ストリートチルドレンという言葉も継続して使っていることを補足しました。

ストリートチルドレンたちは、ごみ拾いや駐車場の整理、新聞やタバコの販売などでお金を稼いだり、路上で物乞いをしたりしています。ゴミの中から食べ物をあさり、空腹を紛らわすためにシンナーを吸う子どもや若者がいるそうです。

学校を中途退学、または就学していないために十分な教育が受けられていない子どもが多い他、不安障害やうつ病を発症することや、若年妊娠・出産のリスクがある等、ストリートチルドレンの実態について説明しました。辻本氏はこれまでに14歳で妊娠した女の子と出会い驚いたことを紹介し、若くしての妊娠は母体に影響があると同時に、母親自身が教育を十分に受けられないことで、子どもにも負の影響を及ぼすことを説明しました。

このような状況にあるストリートチルドレンが増えている背景には、まずフィリピンの政府からの支援が不十分であること、そして十分な教育を受けられないまま路上で大人になり、さらに次の世代の子どもたちが路上で生まれ育っていくといった状況があります。

そのため、ACC21は、路上の若者たちに焦点を当て、彼らが手に職をつけ、路上から抜け出していけるように支援をしています。

(プロジェクトの紹介)

ACC21の「Project Bamboo:路上で暮らす若者の自立支援プロジェクト」では、16~24歳の路上で暮らす若者に、金銭管理などや職業技術を学ぶための研修や就職・訓練、起業に役に立つ様々なサポート、カウンセリング等を提供しています。就職や起業に必要な職業技術の研修や開業資金などを提供するだけでは、路上の若者たちの真の自立につなげるのは難しいそうです。その理由は、家庭や学校で十分に育ててもらった経験が少ないために、目標を立ててそれを達成する、計画的にお金を使うといったことを知らないからです。「必要なもの(Want)とほしいもの(Need)は違う。必要なものからお金を使うということを学んでもらう」そうです。

2018年から始めたこのプロジェクトは、2022年10月までに109人の若者がプロジェクトを修了。本人だけではなく、修了生の家族(親、きょうだい、子どもなど)もこのプロジェクトから恩恵を受けていることや、このプロジェクトを通して、若者が自信や誇りが持てるようになったことを聞きました。

また本プロジェクトを通じて年間30~40人の若者の自立支援に取り組むことと並行して、ACC21ではフィリピン全国に約37万人いるストリートチルドレンを2030年までにゼロにすることを目指し「フィリピンの“ストリートチルドレンZERO”キャンペーン」に取り組んでいることを紹介されました。現地NGOや政府関係者と連携しながらより大きな活動にしていきたい。」と辻本氏は話しました。

(写真、上から3番目が辻本氏)

講師のお話2:清水氏

NGO職員の傍ら、人道写真家をしている清水氏からは、「写真をメインに、ストリートチルドレンのリアルを紹介していきたい」と、路上で生活する子どもたちの写真を見ていきました。

(写真、一番右が清水氏)

シンナーを吸う子どもの写真があり、シンナーはビニール袋に接着剤や除光液をたらして鼻から吸うもので、子どもたちが接着剤を買って分け合う商売をしていることや、シンナーを吸い続けると、体内のカルシウムが溶けて脳に影響を与えると説明しました。このような子どもたちを支援したくても、社会復帰をすることの困難さがあることを話しました。

2003年にマニラの墓地で生活していた親子の写真が紹介されましたが、この親子は、2006年に立ち退きの命令を受け、路上での生活をすることになりました。2007年にマニラを再び訪れ、物乞いをしていた子どもの写真を見返したところ、その少年は墓地で暮らしていた親子で当時は赤ちゃんでした。「路上生活をする子にまた会えるとは思っていなかった。赤ちゃんがたくましく成長していたことに驚いた」と清水氏は衝撃を受けたそうです。赤ちゃんが少年に、そして青年に成長した様子が写真からうかがえました。

路上で生活している子どもを、施設で保護したいと思いつつも、親がいる子どもには親の同意が必要なため、保護することは勝手にできないといいます。一般的には、子どもを学校に行かせずに働かせていることに対して疑問されると思いますが、路上生活をしなければいけない状況では、自分たちが生きていくために、どのように稼いで生きていくのかを子どもたちに教えていかなければいけないのではないかと話しました。

貧困の状況では、貧困率は、2018年:21.1%⇒2021年:18.1%、生活費までは回らず食べ物を買うだけで精一杯な生存貧困率は2018年:8.5%⇒2021年:5.9%となり、貧困率は下がっているため、貧困の状況は改善されたと数値的には見えるが物価の上昇率も影響していると説明しました(-「フィリピン統計局2021」より)。

―児童労働の数でいうと5歳から17歳の数は、約87万2000人
―劣悪な環境で働く子どもたち 59万7000人

教育事情では、6~11歳、12~15歳の中退率はそれぞれ10%以下ですが、16~24歳では87.3%。小学生のうちは体が小さくあまり働けず、中学生になると体が大きくなり働けるために中学校で教育を終え、高校に行って卒業することは少ないそうです。この数字は貧困率とも関連し、公的な教育を修了していない世帯主の世帯貧困率は約50%、大学卒業の世帯主の世帯貧困率は約2%と言われています(-「フィリピン統計局2016」より)。

両親の離婚や家庭内暴力により、居場所がなくなった子どもが、路上で生き抜くためにギャングに属し、犯罪を犯し青少年収容所に収容されることもあります。収容所では、日本の少年院のようにプログラムがあまりないために、寝ている子どもが多く、国境なき子どもたち(KnK)のスタッフが足を運んでいます。「手はナイフを持つ」、「目は、にらみをきかせる」、と思っている子どもたちに対して、手は握手、目は笑顔を見せるためというように、体の使い方を変えていこうという心理的なプログラムを提供しているそうです。

(清水氏の講義スライドより)

 

自己否定、人間不信に陥っている子どもたちに対して、スタッフが時間をかけて、子どもたちの心を開いていくそうです。KnKのビジョンを紹介し、3番目の「子どもたちが互いの違いを認め合い、友情をはぐくみ、共に成長できる社会」はKnKの特徴であり、これは日本の子どもたちを含み、フィリピンの子どもたちと一緒に成長していこうという理念があると最後にお話ししました。

参加者との意見交換

講師のお話の後に、2つのグループに分かれ、それぞれ意見交換を行いました。

―ストリートチルドレンとは、日本で言うホームレスのようなものだと思っていたが、ほとんどの人は家や家族があり、昼間だけ路上にいるということを知って少し安心した。

―フィリピンの収容所の様子を見たことがなかったため驚いた。

―コロナ禍での子どもたちの変化は?
⇒辻本氏の回答:2020年3月から、フィリピンでは世界一長いロックダウン(都市封鎖)がされていたため、子どもと高齢者が外出できない時期があった。路上で収入を得ていた人たちが、ずっと家の中で過ごし息が詰まっていたと思う。

―収容所は監獄のような場所で、子どもが収容されているが、ストリートチルドレンである子どもにとって、保護されて食事を与えられることが幸せと感じる子もいるのではないか。
⇒清水氏の回答:収容所だとごはんを食べられるからとはいえ、積極的にそこにいたいという人はあまりいない。路上生活をしている子は、自由なので若者の家で保護をしたとしても、自由気ままに生きられる路上に戻りたがる印象がある。

その他、支援をすることは良いと思うが現地のニーズに合っているのか、子どもたちにとって加害者となっている大人への啓発活動はあるのか等、たくさんの質問や感想が寄せられました。

司会の小池氏より、次回が学習会シリーズ全5回の最後であり、どのように一歩を踏み出すかというようなことを学ぶ会であることを話しました。本学習会でのお話を聞いて、自分にできることは何かないかと考えていただけたら嬉しいとお話し、第4回の学習会を閉会しました。

(参加者の皆さんと)

報告:シャープ茜

【協力団体】
講師:辻本紀子氏(認定NPO法人アジア・コミュニティ・センター21(ACC21)広報/事業担当)

講師:清水匡氏(認定NPO法人国境なき子どもたち 理事・広報/人道写真家)

司会&ファシリテーター:小池絢子氏(認定NPO法人WE21ジャパン 民際協力室・事務局次長/JPN正会員団体・運営委員)

ファシリテーター:内山順子氏(NPO法人DAREDEMO HERO 理事長/JPN正会員団体・運営委員)