活動報告:学習会第3回「私たちの豊かさの裏側にある環境問題」を開催しました 2022.11.16

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全5回の学習会シリーズ「現場から学ぶ国際協力~はじめの一歩から行動に移すまで~」の第3回の報告です。

第3回の学習会、「私たちの豊かさの裏側にある環境問題」を2022年11月16日(水)に開催しました。初参加の高校生や、小学生(3回目の参加)、大学生、社会人の9名が参加。講師は、後藤順久氏(NPO法人イカオ・アコ 理事長)と小池絢子氏(認定NPO法人WE21ジャパン 民際協力室/事務局次長)。司会は、横田宗氏(NPO法人アクション代表、学習会第1回の講師)が務めました。

講師のお話1:後藤氏

普段は日本で活動する講師の後藤氏は、フィリピンに滞在していましたが、天狗熱に感染したために、講義はできず、事前に受け取っていた講義のスライドを代読することになりました。スライドと後日送っていただいた補足説明の内容を報告いたします。

(後藤氏の講義はスライドを事務局が代読)

鳥居の前にいる高校生の姿が映り、「フィリピンに鳥居が立っている、なぜ?」というスライドから始まりました。第2次世界大戦でネグロス島に駐在していた日本兵の一人、土居さんは戦後、戦友の慰霊碑をフィリピンに建設しました。日本の人が建てた慰霊碑に一方的に思いを寄せるのではなく、現地の方たちと一緒に、現地の方たちの生活を改善するための活動を通じて友情を育むことができたらと、1997年に土居さんと共にマングローブの植林が始まりました。イカオ・アコはフィリピンのネグロス島とボホール島で活動し、主な活動がマングローブ林の再生です。これまで植えた186万本のマングローブは、フィリピンと日本の友情の証となっています。

(マングローブの苗の成長過程)

フィリピンでは、4分の3のマングローブが失われたのですが、その主な原因がエビと魚の養殖で、マングローブが3、4年で病原菌に廃棄され、マングローブ林が切り払われました。エビの新規輸出国はインドやバングラデシュに変わっていますが、そのため南アジアではエビの養殖によってマングローブ林が破壊され、その連鎖が国外に広がっています。一方で半分以上を輸入する日本は豊かな食生活を享受している現実があるといいます。

新型コロナウィルスは世界規模での経済社会に大きな打撃を与えましたが、世界規模での次の大きなリスクとして、気候変動をあげました。地球の平均気温や、気候変動の原因に関するクイズが出されましたが、その答えからは、先進国の経済成長が途上国に気候変動という形でマイナスのインパクトを与えていることがわかりました。

イカオ・アコはマングローブの植林をプログラムの中心としたスタディツアーを提供していて、毎年40~200人の日本の若者が参加しています。フィリピンの高校生と七夕の短冊のコンテストを共催したり、イカオ・アコを支援する目的で学園祭にうどんを販売したりという、高校生独自の動きが出てきたそうです。

若者の参加者意識を高め、達成感から自己成長につながる仕掛けは何だろうと考え、ユースだけをメンバーにしたグループをイカオ・アコ内に作成し、若者が共感できる活動をしていきたいと考えているそうです。

講師のお話2:小池氏

これまでの学習会で司会やファシリテーターを務めた小池氏が今回は講師として登壇。冒頭に、「ベリーダンスやダルブッカというアラブの文化、ランニングにハマっています」と話し、楽しんでいる様子を写真で紹介しました。そんな面を持つ小池氏が、国際協力に目覚めたのは高校生の時で、きっかけは緒方貞子氏(当時、国連難民高等弁務官〔UNHCR〕の話を聞いたこと。2001年の9.11(アメリカの同時多発テロ)の頃、沖縄に修学旅行に行くはずが急遽京都になり残念に思っていたけれど、緒方氏の話を聞き、自分が修学旅行で沖縄に行けなかったと考える裏側で、アフガニスタンでは罪のない人が命を落としたり、難民になったりしたことを初めて知り、世界で知られていないことや、自分がいかにのんきだったか気づき、知ったからには何かしたいと思ったそうです。大学時代に人権の問題に関わる世界的NGOの学生団体で活動し、大学院では国際関係学を学び、新卒でWE21ジャパンに就職し、今に至ります。

(小池氏の紹介)

WE21ジャパンは、「WEショップ」と呼ばれるチャリティショップをメインで行っています。チャリティショップとは、イギリスが発祥で、地域の方に不用品を提供していただき、それを販売して売上を慈善団体のような場所に寄付をするというお店です。WE21ジャパンでは、フィリピンやインド、カンボジア、パレスチナに寄付を送り、お金を送るだけではなく、支援した先を訪問し、現地の課題を持ち帰って、地域の方に伝えていくことを大切にしているそうです。

なぜ、リユースやリサイクルといった地域での支援の循環と海外支援・国際協力の活動をしているのか、スマートフォンやパソコンをテーマに話をしていただきました。食べ物の場合は産地を気にするけれど、スマートフォンに使われている金属が何か、産地はどこかということはほとんど知られていません。フィリピンは鉱物の原産国の一つで、ルソン島北部のベンゲット州はWE21ジャパンの活動地域です。

先住民族が住む山岳地帯のベンゲットで1gの金を採掘するには、周りも1トン分の廃棄物を掘り、山や森林を破壊するために環境には大きな影響がありました。住民は暮らしていた故郷を追われました。フィリピンの鉱山開発が進んだことには、日本の高度経済成長の時期や、パソコン(2000年代)やiPhone(2010年ごろから)の普及とつながっているといいます。日本の生活が便利になる一方で、フィリピンの鉱山問題があり、このことは私たちの問題でもあると考えていいと思うと小池氏はお話しました。

鉱山開発により立ち退きを強いられたキブンガン群ルボ村の住民が地域に戻り、日本の足尾銅山(栃木県)にあった鉱山での環境破壊の場に植林をしたことで環境が戻った方法を真似てルボ村の環境回復を行いました。コーヒーの木や高原野菜を植え、生活基盤を回復しながら植生回復をする活動を10年間行い、2021年度には現地の人が力をつけ、緑がなかった跡地にも緑豊かな状態に戻りました。

地球上の資源には限りがあり、その資源を使っていく裏側では、資源を全然使わない人が環境や人権、貧困の問題を抱えています。

(小池氏の講義より)

「私たち一人ひとりが変われば世界が変わる」

世界の環境問題を、フィリピンの鉱山問題からお話しました。他人の問題ではなく、私たちの問題として常につながっています。私たちができることについて、WE21ジャパンを紹介したけれど、他にもたくさんありますので、一人ひとりが、何ができるかというヒントになる話になったらいいなと思うと、小池氏はお話を締めくくりました。

参加者との意見交換

講師のお話の後に、全体で意見交換を行いました。

—講師の後藤さんが参加できなくて残念。今まで使えなくなった服を捨ててきたけど、こういうところ(WEショップ)に寄付できるといいなと思った。
—フィリピンのイメージはバナナの生産と観光地。鉱山が取れるとは知らなかった。私たちが使っているスマートフォンで犠牲になっている人がいることを知ってショック。スマホを作った材料はどこから来たのかとあまり考えていなかった。
—100人の1歩と聞いて、大きなことをしなくていいんだと気が楽になった。
—ファッションが好きで、服を結構買っている。安いという理由ではなく、生産に関わる人のことも考えて、自分のことだけしか考えていないのはだめだなと思った。

—ベンゲットと日本は縁が深い。民際協力と聞いて、日本民際センターを想像していた。
⇒「民際」という言葉について、小池氏からの説明
神奈川県は「民祭協力」という言葉を使っている。国と国ではなく、普通の市民の人たちが世界を支援できるように活動している私たちにはふさわしい言葉だと思った。

小学生、高校生、大学生、NGO関係者を含む社会人という年齢も立場も様々な方が参加していました。「自分の地域にもチャリティショップがほしい」「フィリピンでもチャリティショップがあるとよい」「日本とフィリピンの架け橋になりたい」という意見があり、参加者がとても意欲的に行動につなげようとしている様子がうかがえました。それに対して、ファシリテーターやNGO関係者が感想や経験を述べ、参加者との良いディスカッションができたように思います。

司会の横田氏より、チャリティショップは面白い。フィリピンの中間層方にチャリティショップを見てもらいたいとのコメントがありました。次回の学習会にも友達や知り合いを誘って参加してほしいと呼びかけ、第3回の学習会を閉会しました。

(参加者の皆さんと)

報告:シャープ茜

【協力団体】
講師(スライドの提供):後藤 順久氏(NPO法人イカオ・アコ 理事長/JPN正会員団体)

講師:小池絢子氏(認定NPO法人WE21ジャパン民際協力室・事務局次長/JPN正会員団体・運営委員)

司会&ファシリテーター:横田宗氏(NPO法人アクション代表/JPN正会員団体・運営委員)

ファシリテーター:内山順子氏(NPO法人DAREDEMO HERO理事長/JPN正会員団体・運営委員)