学習会「フィリピンからの緊急報告:貧困家庭を襲ったコロナ禍、私たち日本のNGOが果たした役割」を開催

JPNニュース
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2020年7月2日木曜日、「フィリピンからの緊急報告:貧困家庭を襲ったコロナ禍、私たち日本のNGOが果たした役割」と題し、日比NGOネットワーク(JPN)の学習会を開催しました。

見えない敵・新型コロナウイルスが世界中の人々を恐怖に陥れる中、フィリピンにおいても多くの人々、とりわけ貧困層の人々の収入の道が閉ざされ、人々は厳しい外出制限が課される中で今までの生活を失ってしまいました。第1回学習会では、このような過酷な状況にいち早く対応したJPNメンバー団体・(特活)ソルト・パヤタス、(特活)DAREDEMO HEROより講師をお迎えし、各団体が支援した地域の様子の紹介、支援を行う中で得た気づきや課題について、報告していただきました。「学び合い」には対面が一番ですが、感染症対策のため、オンライン(Zoom)開催とし、会場参加を希望する方のみ、「3密」とならない環境にてお集まりいただきました。オンライン、会場参加合わせてJPN正会員団体職員5名、財団、NGO関係者6名、大学教員2名、公務員1名、高校生5名計19名にご参加いただきました。 

1人目の講師は、(特活)ソルト・パヤタスの井上広之事務局長です。ケソン市パヤタス地区、リサール州カシグラハン地区で子どもの教育支援、女性の自立支援を行っているソルト・パヤタス。井上氏はまず、団体とその活動について紹介し、3月中旬以降、新型コロナウイルスがルソン島に与えた影響について、フィリピン政府からの発表、感染状況など順を追って説明しました。
「今日稼いだ収入は今日の生活に使ってしまう」。そんな日銭暮らしを続ける貧困層の人々にとって大事な収入源である路上販売やトライシクルなどのドライバーの仕事は、新型コロナウイルスの影響によりできなくなってしまいました。日本にいる団体スタッフは当初、行政による支援の様子を伺っていましたが、井上氏をはじめとする日本のスタッフはフィリピン現地の事務局長と連絡を取り合う中で、行政による食料援助や現金給付が開始されたものの、食料品の配布時期に地域差があったり、すべての人に支援の手が行き渡らなかったりといった情報を聞きつけ、素早く団体独自の支援をスタートさせました。
60人以上の支援者から73万円以上の寄付が集まり、食料品1,270セットを配布し、炊き出し活動により2,160人の人ができたての食事をとることができました(2020年7月2日現在)。日本国内の状況も厳しい中、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通じて現地の状況を訴えかけた発信は多くの人に届き、団体を知らない人からも寄付をいただくことができました。しかし、こうした嬉しい気づきとともに、支援を行う中で課題も見つかりました。まず、現地で支援に携わるスタッフの身体的、精神的なケアです。支援活動を行うスタッフ自身も感染リスクは同様にあります。また、受益者を選ぶ際の公平性の問題です。特に、新型コロナウイルスという、すべての人が感染リスクに侵される状況はこれまでになく、誰が最も支援の手を必要としているのか、公平に判断することが今後の課題だと井上氏は話しました。

質疑応答の場面では、支援開始に関する組織の意思決定はフィリピン、日本どちらで行ったのか、といった組織に関する質問や、物資の支給ではなく現金給付を行わなかった理由は何か、といったアプローチに関する質問がありました。また、団体では今後、新型コロナウイルスの中長期的影響のアンケート調査を行う計画ですが、調査の実施方法に関する質問も寄せられました。

2人目の講師は、(特活)DAREDEMO HEROの内山順子理事長です。セブ州セブ市の貧困家庭の子どもたちに教育支援を行い、貧困層からリーダーを輩出し、フィリピンの社会システムを変えることで貧困問題の解決を目指しています。
団体紹介の後、内山氏はセブ市内の新型コロナウイルス感染状況について説明しました。フィリピンにおける1日当たりの新規感染者数最多の記録を持つセブ市(2020年7月2日現在)。外出許可証を近隣住民と共有しなければならないがその際の感染拡大が懸念されていることや、米の配布はあっても、米を炊くためのガスがない、厳しいロックダウン下にある地域の人は「自分たちは見捨てられた」「コロナで死ぬ前に飢えで死ぬ」と感じています。現地に駐在しているからこそ把握できるこうした人々の状況を、一つ一つ紹介し、セブの人々が精神的にも厳しい状況にいることを訴えました。
団体では奨学生に対し、生活費支援と学習支援の二つを実施しています。コロナ禍では子どもたちは自宅学習を続けていますが、貧困家庭の多くはオンライン学習を行うための環境が整っておらず、「学力の差」が生じてしまう危機感を感じています。また、DAREDEMO HEROは現金給付による生活費支援も行っています。各地域、家庭の状況により必要なものは異なるため、最も必要なことに使ってもらうために、現金給付策をとっています。その際は現金の使途を団体に報告することにしています。また、団体の奨学生、奨学生が住む地域の人々だけでなく、「フロントライナー」と呼ばれる、感染リスクの高い現場で働く人々に対しても、ゴム手袋などの必要物資を配布していることも伝えました。
物資などの大量配布を可能とする行政と、人々に一番近いところで真のニーズを聞くことのできるNGO。内山氏は、行政とNGOのすみわけをはっきりさせ連携をとることにより、必要な支援が早急に人々に届けることができるという考えを共有しました。

内山氏の発表を聞いた参加者からは、貧困家庭出身の奨学生本人たちはDAREDEMO HEROが掲げる「貧困層からリーダーを輩出する」というビジョンについて、子どもたちがどのように考えているか知りたい、情報収集や学習のためにインターネット環境を求めるあまり、人が集中した場合の感染予防策について詳しく聞きたい、支援を行う団体のスタッフ体制について知りたい、といった質問などがありました。

後半の時間は、NGO職員、大学教員、高校生といったさまざまな背景を持つ参加者とともに「今後フィリピンはどうなる?私たちに何ができるか?」というテーマで話し合いました。
また、2020年からは、小規模なビジネスの起業も選択肢となるよう、支援金の提供や起業トレーニングを通じて、若者の起業を支援しています。さらに、若者が事業を成功させるためにどのようなサポートが必要なのか、調査活動を開始したとのことです。

冒頭では、新型コロナウイルスという先進国を含む全世界が混乱に陥る中、フィリピンに関心を向けてもらうためにどのような動機付けがあるべきか、といったなげかけが大学教員の参加者よりありました。内山氏は自身にとっての偶然のきっかけがフィリピンであったことが現在の活動につながっているが、フィリピンのネガティブな部分ではなくよりポジティブな部分や魅力を伝えることで、人々に関心を持ってもらうことが大事なのではと話しました。「動機付け」については、高校生の参加者からも意見があり、フィリピンやフィリピンの貧困問題に関心を持ってもらうためには、その人自らが現地に赴き、身をもって現状を知ることが重要ではという意見がありました。「身をもって現状を知る」ということに関しては、DAREDEMO HEROでインターンシップの経験がある高校生の参加者から、現地での経験の共有がありました。
また、学生を引率しフィリピンを訪問した経験のある大学教員の参加者からは、今後コロナとともにある時代において、どのような展望をもってフィリピンと付き合うべきか、といった問いかけもありました。この問いかけに対し井上氏は、組織の資金源と活動について見直すことが必要だと話しました。また、JPN正会員団体の職員からは、NGOは「顔が見える支援」を強みとするが、コロナ禍において「顔が見えない支援」になる可能性があるため、コロナ禍においてもNGOの基盤が緩まないように努力をすべきなのでは、と意見を共有しました。

NGO職員、大学教員、高校生といった、異なる立場の参加者による自由な意見交換の時間を通して、今後フィリピンとどのように付き合うべきか、それぞれの立場でできることについて、考えることができました。参加者一人ひとりにとって、学びや気づきの多い時間となっていましたら、幸いです。
(報告:堀部)